見えない力 ー 運命を変えられた男 ー 森井洋介

KNOCKOUTによって運命を変えられた男がいる。 この1年で以前と比べると想像すらできないほど大きな声援を受け、 見る者を魅了してやまないKOを量産する者がいる。 全日本スーパーフェザー級王者の森井洋介、29歳。 昨年9月14日、旗揚げ記者会見で組まれたVS高橋一眞戦から始まり、 森井は本戦に唯一レギュラー参戦している。通算戦績は7戦6勝(6KO)1分。 大会名を象徴するかのように、KO率は85%を超す。その活躍はMr.KNOCKOUTと呼んでも差し支えあるまい。 森井も自分を取り巻く環境は激変したことを痛感する。 「昔は声をかけてくる人は男ばかりだったけど、最近は女性と半々くらい。 個人的には、いい傾向だと思いますね(照れ笑い)」   地上波に映るキックボクシングと映らないそれはそれほど違いがあるのか。 高度成長期、キックボクシングは″マッハのスポーツ″と呼ばれ、地上波の花形スポーツだった。 ピーク時にはフジテレビを除く民放全局が週1回のレギュラー番組を放送していたほどだ。 地上波で放送されるということは、コアなファンだけではなく、その周辺の少しだけ興味を抱いている層にもその熱が届くことを意味する。 数年前、森井の師のひとり藤原敏男を連れて門前仲町にある行きつけの小料理屋の暖簾を潜った時のことだ。 そこの大将は藤原さんの顔を見るなり、すぐ「昔、テレビで見ていました」と歓待してくれた。 70年代、藤原の試合は東京12チャンネル(現・テレビ東京)で定期放送されていた。 先のブームから半世紀近くの歳月が経った。大会をプロモートする団体は増えたが、 長らく地上波でレギュラー放送されることはなかった。世間に届かなければ、どんな激闘を繰り広げても評価されることは少ない。 森井も、どんな好勝負を繰り広げてもコアなファンにしか評価されないという悶々とした日々を送っていた。 しかし、KNOCKOUTに参戦以来状況は徐々に変化していく。 それはTOKYO MXを皮切りに、神奈川、岐阜、滋賀、和歌山の地上波と 全国放送のBS11でレギュラー放送されていることと無関係であるまい(17年11月現在)。 森井は長野県上田市出身。 地元の友人知人もBS11やエムキャス(TOKYO MXをアプリを通じて視聴するシステム)を通じてKNOCKOUTを視聴しているという。 「自分の評価が上がっているかどうかはわからないけど、 やっぱり応援してくれるファンはメッチャ増えたと思いますね。おかげでモチベーションも高くなりました」   舞台は整った。それに見合う活躍ができるようになったのは、 ジムの先輩である″野良犬″小林聡の指導を受けるようになったことが大きい。 兄弟子との二人三脚は、2014年5月、所属ジムである藤原ジム(当時)の自主興行『藤原祭り』でルンペットというタイ人と闘った時から始まった。 「それから状況は一気に変わりました。それまでやってきた練習はいまの10分の2だと思いました」   ──具体的にいうと何が違う?   「練習量も違えば、その内容も違う」 藤原ジムの練習は独特だ。サンドバックを相手に掛け声とともにひたすら打ちまくり蹴りまくる。 その際選手たちとテンションは異常に高く、サンドバックが次の対戦相手であるかのように左右上下に動きながら我を忘れて攻撃を加え続ける。 その様はまさに阿鼻叫喚。前衛芸術集団のパフォーマンスを見ているような錯覚に陥る。 そのことを告げると、森井は苦笑いを浮かべながら頷いた。 「いまだ(藤原ジムが入った雑居ビルの)エレベーターを上がっていく時にああいう声が聞こえたら、いつも怖くなる。本当に怖い」 365日の中で週6回続けている練習ながら慣れはない。 ただ、同じ練習をしていても、森井のように伸びる者もいれば、伸び悩む者もいる。 あの練習をやっているだけでも、ある程度は強くなれますよねと振ると、森井はあれだけやっていても全然強くなれないと否定した。 「強くなれるか、なれないか。その違いは何をイメージしながら練習しているかだと思います。 ああいう練習もそうだけど、その中でも考えていくことが必要だと思う。 狂ったようなところだけがクローズアップされがちだけど、そうではない」   以前、なぜ狂気じみた練習をするのかを指導する藤原に聞いたことがある。その答えはヒザを叩くものだった。 「ムチャクチャにやっているように見えても、そういう動きを繰り返しているうちに自分の身体の使い方を覚えることかできるようになる。 だから無駄に見えるように見えても決して無駄ではないんだ」 藤原の話を告げると、森井はそうだと思いますと言いながらもう一度大きく頷いた。 … Continue reading 見えない力 ー 運命を変えられた男 ー 森井洋介